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登山の入山料:富士山入山料は全国で必要

  ◇ ◇ ◇
以下の文章は、2013年4月3日に東京新聞首都圏版「談論誘発」に実名で寄稿したものである。
このブログ「日本に好奇心!」の性格とはいくらかずれるため後日自分のHPに掲載する構想でいたが、なかなか作業が進まず、富士山は世界遺産登録が秒読み、人に溢れるシーズンが近づいてくるという状況を考え、暫定的にここで紹介することにした。
記事が首都圏版限定で関東地方以外の人には目にできなかったため、全国の皆さんにお伝えしたいとの思いもある。
ブログ上のカテゴリーを「登山に関する一言」としたが、テーマ内容は登山という枠に留まることではない。日本の国土価値をどう考え、守っていくのか、問題意識が広く共有されることを願っている。



◎記事タイトル
■「入山料は自然保護の対価/国主導で全国実施を」

静岡県と山梨県が富士山入山料の徴収を検討し、早ければ今年夏にも試験導入されるという。これに対し一般からは概ね賛同の反応が多いとも報道されている。

同様の動きは日本アルプスを抱える長野県にもある。私はかねがね必要性を感じていたので歓迎だ。技術上の問題はICカードで可能だろう。ただし県独自でなく、国が主導して全国で実施するべきだと考えている。

なぜ入山料が必要なのだろうか。
人が入れば、どんなに注意しても自然環境には負荷がかかる。富士山五合目のように樹林帯より高い場所では生態系が脆弱(ぜいじゃく)で、一度崩壊すると元に戻らない。樹林帯以下にはある程度回復力があるが、対策がなければやはり負荷が上回る。植物が絶え土壌は流出し、地面がえぐれていく。

現状の保全活動はボランティア頼みで、補助金があってもわずかだ。国内各地の公園レンジャーからは乏しい予算への嘆きをよく耳にした。補助金はあてにできない。誰が環境保全のコストを負担するべきかを考えれば、縁のない人を含む国民全体より、誘因者であり受益者たる登山者がまず負うべきではないだろうか。

国が主導すべきなのは、全国に統一性を持たせること、保全活動に各地域が試行錯誤している現状を改め、情報交換と科学的検証により実効性を高めるためだ。生態系のコントロールは難しく、不十分な知見で取り組んでも実は上がらない。国が基本的な指針を示した上で、各現場に合った実行方法を決めるのが有効だろう。

注意するべきは、安全対策に深入りしないことだ。登山道を誰が作ってもその安全確保の責任を負わすべきでなく、登山者は自己責任の原則を忘れてはならない。遭難が起きた場合、救助費用を入山料収入で賄うことには反対だ。現在実質無料になっている公共ヘリを有料化し、民間保険への加入を奨励すればよい。ヘリは救急車とは違う。登山はレジャーであり、少額でも有料化して補助は最小限に抑えるべきだ。

入山料は、富士山五合目や長野県・上高地など環境負荷の高い場所では、観光客からも徴収するべきだろう。全国の国立・国定公園も、将来は徴収を視野に入れてほしい。
徴収への抵抗感は最初だけで、心配されるほど登山客の減少は起きないと思う。逆に、自然環境が改善されれば、山の魅力も高まるだろう。

徴収で環境保全が進むことはもちろん、私は登山者や観光客の意識向上にこそ実は期待を抱いている。山に登ることで得られる癒やしや壮快感は、人為に乱されていない自然だからこそだ。それを感じている自分(登山者)が今、自然を乱している。皆がその事実に気付いてもらいたい。そして、本来の姿に戻す費用をためらいなく出せるようになれば、次の世代に美しい日本を伝えていく展望も開けていくのではないだろうか。




◆補足

「談論誘発」は最初に一人が提起した問題に対して、別の1~2人が意見を述べる形式のコーナーである。
この時は筆者がまず4月3日に提起し、続いて雲取山荘経営者の新井氏(4月6日)、群馬県片品村村長・千明(ちぎら)氏が意見を述べ(4月7日)、さらに約3週間後、新聞読者から寄せられた意見をまとめた「反響編」(5月1日)が掲載された。
予想通り山荘経営者、村長ともに富士山以外での徴収には反対という立場だった。一方読者の登山愛好者や登山ガイドからはほぼ賛成の声が寄せられた。

以下では1200字の字数制限のため紙面に書き切れなかったことを補足したい。


一般登山者は気付かなかったはずだが、10年くらい前に山小屋へ用紙を配り、環境省がアンケートを取ったことがあった。
「もし入山料が制度化されたら、あなたは幾らなら払いますか?」
ちょうど滞在していた山小屋にも5枚くらい用紙が回ってきて、本当は登山者向けだったのに私やスタッフが記入して提出した。私は3000円とし、100円と書いた人もいた。集計結果は公表されていない。
環境省ではこのように登山者から何らかの料金を徴収する必要性を以前から認識しているのである。一向に具体化されない事情は解らない。

アメリカでは日本風の登山という文化はないが、国立公園に入るのに5ドルから15ドル程度の料金を払い、数多くのレンジャーたちが保全・監視・情報発信の活動をしている。それを経験した身には、日本で払わないのはなぜだろうと考えてしまったものだ。

私たちが登山するとき、交通費を別にすれば財布を出すのは食事・飲み物・お土産くらいで、節約を心掛ければ日帰りで歩き終わるまで出費ゼロにできる。最近増えてきたチップ制トイレでコインを払う程度である。
宿泊しなければ実質的に登山はタダなのだ。

では登山を可能たらしめる登山道設備や標識は誰が作ったのだろう?その労働は無料奉仕だったのだろうか?また痛んだ登山道の補修、踏みつけで死んでしまった高山植物を復元させる費用はどうなのか。植物は放っておけばまた生えるから費用は要らないと思ってはいけない。人が適切な処置をしない限り、放置するだけでは30年経っても元に戻らない。

反対論には徴収方法の問題を持ち出す人がいる。その点は鉄道改札で普及したICカードを応用すればよい。そういう新しい技術を知っていれば徴収困難というのは理由にのぼらない。
100%徴収しようとするとコストが飛躍的に増大するので、ルールとして払うことに決めて主要登山口や山小屋でカードをチェックするのに留め、漏れないように厳しくする必要はない。ポストへの入金より、登山中ずっと身に付けているカード方式のほうが心理的に有効である。支払うのがルールであると皆が解っている状況で、カードを持っていない者は後ろめたさを感じやすいはずである。
もともと登山者は一般平均よりモラルが高いので9割はルールを守ると想像している。

想定される金額は500円や1000円だろう。これで登山を中止する人はごく少数と思う。また一般へのアンケートでは60%が徴収に賛成と答えたという。
集まったお金をどう使ったのかは透明にしなければならない。復元が目に見えていけば、自分の負担がこうして山を生き返らせているという喜びになるものだ。

国主導を求める理由で新聞に書き切れなかったことに、地方行政の限界という点がある。県単位では反対意見に負けてしまうことが往々にしてある。事実、寄稿文でも触れているように長野県でも検討はしているが、報道を聞く範囲では実施の見込みは薄い。山小屋組合は特に反対している。
北アルプスの山小屋は10年以上前に地元新聞社の特集でし尿処理問題を指摘されて以来、バイオトイレを充実させてきた。コスト回収がおぼつかないチップ制トイレを作るほど環境保全に努力しているのだから、客が減るようなことはしてほしくないというのが本音だろう。入山料が導入されれば山小屋が負担することなくトイレも登山道も整備できるのだということまで、想像してほしいものだ。

そして登山領域だけでなく、マイカーで入れるような観光地でも保全の必要な場所では「入場料」として徴収するべきだろう。
富士山の五合目へやって来る人数は全体で年間約300万人(今夏からは大幅増加だろう)。一人1000円とすれば30億円、500円でも15億円が入り、かなりの保全活動ができる。
半年間しかオープンしない長野県上高地でも130万人が訪れている。
各地方の人気名山でも年間10万人くらいは登山するので、500円ずつとして5000万円になり、毎年の保全活動には十分である。

地道な啓発活動も必要かもしれない。登山を始めた初期のうちに基礎知識として環境保全の大切さや、登山者が入り込むことによって自然がどのように負担を受けているのかを理解したほうがよい。
筆者もそのような内容を発信していきたいと念じつつ時間を無為に過ごし、今年に入って静岡県知事が発表した入山料構想のニュースに刺激されて筆を執ったのであった。

富士山入山料について、残念ながら現実的には5月24日の報道によるとどうやら静岡・山梨の連繋が怪しい雲行きで、山梨県は今年の実施が難しくなり、静岡県が単独、それも寄付金形式になりそうだという。大幅後退と言えよう。
富士山の山梨側は静岡側よりも観光業の規模が数倍大きい。その勢力がやはり反対したのだろうか。世界遺産登録はもう確実となったので環境保全への熱意が冷めたのだろうか。国主導でやるべきだと主張したのはまさにこういう事態を心配したからだったのだが、杞憂が早くも現実となった。

子孫に伝える価値のある美しい国土は、努力しなければ守れない。一切人が触らない原始の状態ならともかく、大勢が出入りする以上は自然美を愛でるのと同じくらい積極的な保護活動も必要になる。

寄稿文末尾の繰り返しになるが、自然を乱しているのは自分であることに気付き、回復させるための費用を抵抗なく差し出せるように私たちの意識が高まっていくことを念じて止まない。
■追記:富士山入山料の試行決定を受けて

富士山は世界遺産に正式登録されることになった。そして入山料問題も展開を見せている。

◆6月28日の報道内容

富士山入山料は山梨・静岡ともに徴収額を1000円として試験導入することに決定した。「保全協力金」という名称で7月25日から8月3日までの10日間のみ、午前9時から午後6時までの間登山口に箱を設置し、職員らが協力を呼びかける形式をとることになった。応じた人には記念品として缶バッジを渡す。
実施できないのではという杞憂からは多少の前進が見られることになった。しかしこの方法で有効なテストができるのか、はなはだ疑問である。

◆試行の目的は果たせるのか


試験として知りたいポイントは、任意の徴収でどれだけ自発的に支払ってもらえるか、課金されると分かっていて入山者が減少するかどうかの2点ではなかろうか。1000円を高いと感じるかどうかは個々の入山者に尋ねるしかないだろうが、報道ではアンケートを実施するかどうかは触れてなく、おそらくやらないのだろう。
わずか10日間、夜間に登山口を通過する人は対象にならないという実施方法でこれらのポイントについて、有意のデータを得られるのだろうか。

まず、これで自発的に支払ってもらえるかという点を計れるのだろうか。係員が顔を見ながら呼びかけることで、大多数の人、おそらく9割は足を止め荷物を下ろして1000円札を取り出すだろう。無人で箱だけが置かれている場合とでは誰しも想像できるように徴収率に大差が生じる。知りたいはずの入山者が趣旨に賛同して自発的に払ってくれる割合は、この方法では正確に算出できないのではないか。
そもそも入山料の構想は強制的に徴収するものである。自発的な支払い率をはじき出したところであまり意味はなく、試験としても強制徴収を行うべきではなかったか。その上で反対意見をその場でアンケート調査すれば登山者の本音がある程度分かっただろう。

また入山者が減るかどうかという点は、私は上に書いているようにほとんど影響しないと予想している。登山者数は天候によっても左右されるし、そのために取りやめたという人の数は量りようがない。せっかくだがこの試行によって入山者数への影響を調べようとしても、有意なデータ(信頼でき役に立つデータ)は得られないと考える。

◆さらなる問題点

さきほどテレビ報道を耳にして気になることがあったので、書き足しておく。
試行では徴収場所が登山者だけの通る登山口となり、車やバスで訪れた観光客は対象になっていない。上に書いているように、半額でも観光客からも徴収するべきである。スバルライン五合目などの観光地も登山道以上に自然環境を痛めていることを直視してほしい。

ま た、徴収した資金の使い途に安全対策も入っていることも問題をはらんでいる。登山者は「安全対策費として入山料を払ったのだから救助はタダにしてほしい」と思うのが自然だ。さらに「登山道整備が悪いから危険にさらされた、怪我をした」と言い出したら収拾がつかない。
登山の原則を周知徹底させるためにも、入山料はレスキュー費用に回さないと宣言するべきである。安全は自己責任ということは登山の基本的な約束として講習会では必ず教えられているはずのことなのだが、特に富士山では登山の基礎を学んでいない人が多いために憂慮されることだ。
すべての登山者はレスキューを受 ければ大金を支払うことになると覚悟して登山しなければならない。登山とはそういうものだ。

◆試行する意義とは

今回の試験導入決定の舞台裏は窺い知れないが勝手に察することを書かせてもらえれば、本格導入には手続きの時間が足りず、強制徴収には反対意見が強く、何も行わないのは世界遺産としても環境保全への姿勢を疑われるため、バランスの取れるところに落ち着いたというように見える。少なくとも立ち消えてしまうよりは救われている。

10日間の試行で得られるデータは、書いてきたように実質的にあまり役立つものにはならないだろう。ただしこれを逆手に取る形で、1000円課金されても入山者は減らないという意見に利用できそうだ。来年以降、本格実施への希望がつながる。

今回試行する意義は、登山者の環境保全意識を刺激したことと、来年以降もっともらしい言い訳を用意しないと中止できなくなることではなかろうか。最初に言い出した静岡県川勝知事はめでたく再選を果たし、この先4年間知事を続けることになった。ぜひとも入山料問題にも覚悟を決めて取り組み続けてもらいたい。

(2013年6月29日)









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